「ワレモノ」の箱を滑らせた作業員、空き箱の底で知った理由

コラム

引っ越しトラックの荷台の上を、赤いペンでワレモノと書いた私の段ボールが、持ち上げられないまま奥へ滑っていきました。私の苦情に、作業員は短い謝罪だけを返して、すぐに次の荷物を運びだしました。

食器だけは自分で包んだ

結婚してはじめての引っ越しでした。夫は仕事で立ち会えず、当日は私1人で業者を迎えました。来てくれた作業員は2人で、年配の方が指示を出し、若いほうの作業員が運ぶ役でした。食器の箱だけは業者の資材を使わず、私が数日かけて1枚ずつ紙に包んだものでした。祖母から譲られた皿が入っていたからです。玄関から運び出される荷物を見ているうちに、気になりはじめたのは作業員の速さでした。箱を2つ重ねて抱え、廊下を早足で何度も往復していきました。

その箱の番が来たとき

食器の箱の番が来たとき、作業員は床から離さず雑に奥まで押すように滑らせて、壁際に寄せたのです。中身は全部食器でした。私は荷台の下から声をかけました。「ワレモノって書いてあるんですけど」。作業員は手前まで戻ってきて、「すみません」とだけ言い、軽く頭を下げました。理由の説明はありませんでした。そのまま次の荷物を取りに、私の横を通り過ぎていきました。訴えたいことの半分も伝わっていない気がして、私は残りの積み込みを、腕を組んだまま見ていました。

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