
毎日同じ質問を繰り返すだけだった私と、若い住人がくれた思いがけない返事
コラム
名簿を抱えたまま
訓練の当日、消火器の実演のあとの片づけで、その住人が隣に来ました。経路図のお礼に続けて、毎朝の質問が気になっていたと打ち明けられ、私は名簿を抱えたまま、隠してきたものを白状しました。「決まった言い方しか、できなくてね」「気の利いた話が続かなくて。同じ言葉に逃げていました」。呆れられても仕方がないと思っていた私に、返ってきたのは短い返事でした。「私も、避けてばかりでした」。畳んだ椅子を壁に立てかけて、頭を下げる姿がありました。責める言葉を覚悟していた分、その返事の方に、私はうまく応えられませんでした。
そして...
翌朝、ほうきを持つ手の先を、あの人が通っていきました。「お出かけですか」。「いってきます」という返事を見送ってから、私は次に配る経路図の余白に、初めて自分の名前を書き入れました。
(60代男性・マンション管理人)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)



























