「自転車の件も、ごみ出しの件も、心当たりがありません」入居者にそう言われた、大家の私の事情

コラム

集積所の網を直しながら、私はあの方に声をかけられずにいました。間違いに気づいていながら、訂正の1通も打てないままでした。机の引き出しには、文字の薄くなった古い貼り紙が、畳んだまま残っていました。

貼り紙をやめた日から

このアパートを1人で管理しています。以前は注意ごとを玄関の掲示板に貼っていましたが、駐輪の注意を貼った時に住人どうしが探り合いになり、名指しされたわけでもない1人が出ていってしまったのです。それからは掲示をやめ、気づいたことは管理アプリで個別に送ると決めました。責める文面にならないよう、事務的に、短く。そう決めて打った1通が、自転車の件でした。「自転車置き場に停められている自転車について、ご確認をお願いいたします」。

打ちかけて消した訂正

返信は、その日のうちに届きました。「確認しました。以後気をつけます」。短い文面にほっとして、それきりにしました。間違いに気づいたのは後日、置き場の自転車に別の部屋の名前の札を見つけた時です。白線に車輪を重ねていたのは、あの方の自転車ではありませんでした。訂正を打ちかけて、消しました。間違いでしたと送れば、この先の連絡を信じてもらえなくなる気がしたのです。そのくせ私は、また送っていました。「ごみ出しの日について、案内の通りにお願いいたします」。収集の後に残っていた袋を、前の日に袋を提げて階段を下りるあの方とすれ違った、それだけのことで、あの方のものだと決めてしまいました。数日後、集積所の前で顔を合わせても、会釈だけして網を直す手に戻りました。

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