
母に絶対見られたくなかった段ボール。一人暮らしの新居で、俺はその箱を開けられずにいる
コラム
叫ぶように出た声
当日、母が手伝いたそうにしていました。朝、「お母さんの手伝いなんていらない」と強く言ってしまったのは、あの箱のことが頭にあったからです。
結局、母は新居の鍵の受け渡しで同行することになりました。作業が終わる頃、母があの段ボールに手を伸ばしたのです。「それは開けないで」。自分でも驚くような声が出ました。拍子にふたがずれ、上にしまった古い連絡帳が少しだけ顔を出しました。耳が焼けるように熱くなるのがわかりました。
母は何も言いませんでした。少しだけ微笑んで、見ないふりをしてくれたのだと思います。
そして...
「じゃあ帰るね」と、母は玄関を出ていきました。ドアが閉まったあと、しばらく動けませんでした。
見られた恥ずかしさと、見られたかもしれない安心感が、胸の中で混ざり合っていました。ありがとうの一言が、どうしても言えない。この距離のまま、俺は大人になるのかもしれません。
ただ、あの段ボールだけは捨てません。10年経っても20年経っても、たぶん俺の部屋のどこかにあると思います。中身を誰かに見せる日は来ないかもしれない。それでも、俺にとってあの箱は、母の手の温度そのものだから。
(10代男性・学生)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)

























