
好きな子の差し入れだけ、わざと名前を言わずに配った僕の言い訳
コラム
以前、彼女が陰でからかわれているのを見て以来、目立たせたくない一心でした。でも、うつむいて箱を片づける彼女の背中を見て、僕は自分の浅さを思い知ったのです。
配ってほしいと頼まれた焼き菓子を、僕は一つずつ手に取って配っていきました。誰からの差し入れかを伝えながら渡すのが、いつもの流れです。けれど彼女の分を配るときだけ、僕はその名前を口にできませんでした。それは、自分の気持ちと無関係ではなかったのです。
いつも通りのはずだった
僕が勤める職場では、誰かが差し入れを持ってくると、手の空いている人が配るのが習慣のようになっています。たまたま通りかかった際に、給湯室で箱を開けている彼女を見かけたので、「配るの手伝うよ」と引き受けました。給湯室に並んだお菓子を一つずつ配って回ることになり「これ、先輩からの差し入れだよ」。そう言いながら、誰が持ってきたのかを伝えて渡していきます。受け取った相手が笑ってくれるのが、僕は嫌いではありませんでした。
名前を言えなかった理由
少し前のことです。彼女が差し入れを持ってきたとき、近くにいた何人かが小声で「また差し入れ?あの子、わかりやすいよね」と言っているのを、僕はたまたま耳にしていました。からかうような口ぶりでした。だから今回、彼女の焼き菓子を配る番になったとき、僕はとっさに名前を伏せました。彼女が気になっていると、これ以上みんなに知られて、笑いものにされてほしくなかったのです。「よかったら、どうぞ」。そう言って渡しながら、本当はもう一つ、別の気持ちもありました。彼女の名前を口にしたら、自分の想いまで声に出てしまいそうで、それが怖かったのです。
次のページへ
うつむく背中
























