
客の食器の箱を荷台で滑らせた俺、1人で足した作業の理由
コラム
抱え上げようとした段ボールの底から、テープのめくれる乾いた音が、手のひらに伝わってきました。荷台の下から届いた持ち主の言葉は、間違っていませんでした。俺は短く頭を下げて、言い訳になりそうな言葉を全部飲み込み、次の荷物を運びました。
1枚貼りの細いテープ
その日の現場は、立ち会いがお客さん1人の引っ越しでした。先輩が指示役で、運ぶのはほとんど俺の担当でした。玄関に積まれた段ボールの中に、ふたへ赤くワレモノと書かれた箱がありました。底の真ん中に1枚だけ細いテープが貼られており、端がめくれて、指をかけただけで浮きが広がっていきました。中身は詰まって重く、胸の高さまで抱え上げれば、そのひと揺れで底が開いてもおかしくない状態でした。だから俺は、箱を腰から上げないまま荷台へ運び、床から浮かさずに奥へ押して、壁際に据えました。
荷台の下からの声
荷台の下から、お客さんの声がしました。「ワレモノって書いてあるんですけど」。振り向くと、こちらをまっすぐ見ていました。底のテープのことを説明しようとして、言葉を選んでいるうちに、どれも言い訳に聞こえる気がしてきました。乱暴に見える運び方をしたのは事実でした。それに、手書きの文字を見れば、自分で詰めた箱だとわかりました。梱包が弱いと伝えるのは、その手間を責めるようで言い出せませんでした。俺は手前まで戻り、「すみません」とだけ言って、短く頭を下げました。
次のページへ
積み込みが終わったあとで























