「音痴は遺伝よ」と笑われて20年、私が結婚式で母に贈った1曲の正体

コラム

「あなた、まだ歌わないの」。打ち合わせの帰りにそう言われた私は、突き放す返事しかできませんでした。それでも当日、マイクの前に立つと決めていました。

ウェディングドレスの試着室で、私は鼻歌の途中で口を閉じました。

20年前の笑い声

結婚式を控えた私には、人前で歌えない理由がありました。20年前、親戚の集まりの座敷で、7歳の私は、母がいつも歌ってくれる子守唄を歌ってみせました。その途中で、母が笑ったのです。「音痴は遺伝よ」。あちこちから、つられた笑いが起きました。私も一緒に笑ってみせましたが、その日を境に、歌うことをやめました。音楽の授業では口だけを動かし、友人とのカラオケは用事を作って断り続けました。

打ち合わせの帰りに

式の打ち合わせには、母も同席していました。進行表の余興の欄を、私は空白のまま提出しました。帰りのロビーで、母が急に足を止めました。「あなた、まだ歌わないの」。この期に及んでからかうのかと思いました。「歌わないから」。前を向いたまま、歩く速さも変えずに答えました。母は何か言いかけて、言葉を飲み込みました。ただ、1人になった帰り道で、決めたことがあります。あの歌を、笑われた記憶のままで終わらせないことです。

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