閉店間際のお客さまに叱られた私が、閉めた後の店で書いた1枚

コラム

「すみません」の他に、言える言葉がありませんでした。2か月間貼り紙を書けずにいた理由を、私はその日まで誰にも話していません。

焼き上げたパンが、早くに売り切れる日が続いていました。棚が空いた日は、掲示より早く店を閉めていました。その日も表のシャッターに手をかけたところで、後ろから呼び止める声がありました。

「すみません」しか言えなかった日

手を止めて声の方を見ると、仕事帰りによく寄ってくださる、クリームパンのお客さまでした。名前も連絡先も知りません。

「営業時間くらい、守ってください」

その通りだと思いました。営業時間を決めているのは私で、それを破っているのも私です。けれど、空の棚を見せて事情を話すことはしませんでした。「すみません」とだけ言って頭を下げ、シャッターを最後まで下ろしました。内側で錠をかける音が、その日はいやに大きく聞こえました。

書けなかった紙

春に、長く店を手伝ってくれた人が辞めました。1人で焼ける量には限りがあり、数を絞った分、パンは早くになくなります。売り切れ次第閉める。そう貼り紙を出せば済む話でした。それでも私は書かずにいました。面倒くさかったというのが本心です。

営業時間を書き換えるでもなく、説明を出すでもなく、そのままにしていました。事情を知らないまま帰ったお客さまが、他にもいたはずです。私はその事を考えないようにしていました。

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