
「汗臭いから、こっち来ないで」。父に言い放った私→社会人1年目の夏、父の仕事鞄を開けて知ったこと
コラム
中学生のころ、友人の前で父に言った言葉を、私はずっと「年頃だったから」で片づけていました。社会人1年目の夏、自分も暑い中を歩いて取引先を回るようになり、実家で父の仕事鞄を開くまでは。取引先を回った帰りの電車で、自分のシャツから上がる汗の匂いに気づきました。
友人の前で言い放った一言
父は営業の仕事をしていて、夏でも一日中取引先を回っていました。帰ってくるころには、ワイシャツの背中の色が変わっていることも珍しくありません。私が中学に上がったころ、家に友人を呼んだ日がありました。玄関の音がして、上着を腕にかけた父が廊下へ入ってきます。友人がいることに気づいた父がこちらを見た瞬間、私は言いました。「汗臭いから、こっち来ないで」父が嫌いだったわけではありません。ただ、友人の前で父の汗の匂いを気づかれるのが恥ずかしかった。それだけでした。父は少し黙ってから、「ああ」とだけ返し、そのまま洗面所のほうへ引き返しました。それ以降、夏になると父は帰宅してすぐ浴室へ入るようになりました。私はそれを、「気にするようになったんだ」と受け取っただけでした。
社会人1年目の夏に分かったこと
就職して配属されたのは、父と同じように取引先を回る部署でした。駅から歩いて会社を訪ね、用事を終えれば、また次の場所へ向かいます。電車の中で少し涼めても、降りればまた日なたの道です。朝に整えたシャツは、昼を過ぎるころには背中に張りついていました。汗拭きシートを使っても、匂いを抑えるものをつけても、次の取引先へ着くころにはまた汗をかきます。ある日の帰り、混んだ電車でつり革につかまったとき、自分のシャツから汗の匂いがすることに気づきました。隣に立っていた人が、鞄を持ち替えて少しだけ体の向きを変えました。その人を責める気にはなれませんでした。中学生の私も、父に同じことをしたからです。そのとき初めて分かりました。汗をかいていることと、何も気にしていないことは同じではありません。むしろ、自分では気にしていても、真夏に何時間も外を歩けば、どうにもならないことがあります。父も毎日、こういう夏を歩いていたのかもしれません。
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父の仕事鞄に入っていたもの


























