「汗臭いから、こっち来ないで」。父に言い放った私→社会人1年目の夏、父の仕事鞄を開けて知ったこと

コラム

父の仕事鞄に入っていたもの

次の休みに、私は実家へ帰りました。玄関の棚に、見慣れた父の仕事鞄が置いてありました。少し場所をずらそうと持ち上げると、思ったより重く、開きかけていたファスナーから白い布が見えました。台所にいる父へ、「これ、出していい?」と声をかけてから中を見ると、畳んだ替えのワイシャツが入っていました。その下には、小さなタオル、替えのインナー、汗拭きシート、デオドラント。脇のポケットには、使いかけとは別に未開封の汗拭きシートまで入っています。「こんなに持って歩いてるの?」と私が聞くと、父は、「夏はな」と答えました。「いつから?」と聞くと、少し考えてから、父は言いました。「お前に臭いって言われたころからじゃないか」私はもう一度、鞄の中を見ました。あの日から父は、何もしていなかったわけではありませんでした。着替えを持って、汗を拭いて、匂いを抑えるものまで用意して、それでも家へ帰るころには汗をかいていたのです。「ずっと気にしてたの?」と聞くと、父は少し間を置いて、「まあな。こっちから『まだ臭うか』とは聞けなかったからな」と答えました。「どうして?」と聞くと、父は、「聞いたら、お前もあの日のこと思い出すだろ」と言いました。私は何年も前の自分の言葉を、父だけに持たせたままにしていました。「あのときは、ごめん」そう言うと、父は、「まあ、臭かったんだろ」と返しました。実際、父は汗をかいていました。だからこそ、その言い方しかなかったわけではないと、今なら分かります。

そして...

帰る前、玄関には父の仕事鞄と私の営業鞄が並んでいました。私の鞄にも、汗拭きシートとデオドラント、替えのインナーが入っています。持ち上げてみると、どちらもそれなりに重いままでした。「こんなの毎日持ってたんだね」今度はそう言うと、父は、「夏だからな」と笑いました。父の鞄の中身は、それからも大きく変わっていません。帰宅すれば、今でも先に浴室へ向かいます。ただ、実家に私がいる日に帰ってきても、以前のように廊下の手前で引き返すことはなくなりました。この前も、仕事帰りの父に、「お疲れさま」と声をかけました。父は、「おう」と返して、そのまま浴室へ向かいました。昔と同じ夏でも、私が見ているものだけは変わりました。

(20代女性・営業職)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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