
3年間、拾った財布の持ち主からの「財布、まだ持っています」。頼んだ理由を、私は伝えていません
ライフスタイル
すり切れてきた角
届く文は、3年変わりませんでした。
「財布、まだ持っています」
私はそのたびに「ありがとうございます」と返しました。持っていてくれることへの礼です。持ち主がそれをどう読んでいたかは、分かりません。
3年目に入ったころ、決まりの文が崩れました。
「角がすり切れてきました。買い替えようか迷っています」
私はその文を2度読んでから、引き出しを開けました。受付をやめるときに持ち帰った、糸が、まだ残っています。
「その角は直せます。捨てる前に、一度見せてください」
返事はつきませんでした。既読の印だけが、その日のうちにつきました。
そして...
次の月の初めに、いつもの1行が届きました。買い替えたなら、この文はもう来ないはずです。糸は引き出しに入れたままで、見せに来る話は、まだ出ていません。あの角を縫ったのが私だということは、伝えていません。伝えれば、持ち主は3年、私の仕事の様子を知らせるために書かされていたと知ることになります。私は今月も「ありがとうございます」とだけ返して、糸を引き出しの手前へ寄せました。
(60代女性・パート)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)




























