
「これで、よかったかな」と聞いてきた彼の前で、私はうまく笑えませんでした
コラム
名前より、飲み込まれた言葉が気になった
軽く見られているのかな、と思いました。けれどそれより気になったのは、彼の言いかけた言葉のほうでした。
私が「うぅん、ありがとう」と返すと、自分の声がいつもより硬いのが自分でも分かりました。彼は「あのさ、今日は......」と言いかけて、そのまま口をつぐみました。
聞き返せばよかったのに、聞いてしまえば、私たちの間で曖昧にしていた何かが壊れてしまう気がして、私はフォークでスポンジの端を崩していました。
お手洗いから戻る途中、私はレジの向こうで店員さんが小声で別のスタッフに確認しているのを耳にしました。「あちらのお席、ご予約ではお名前入りで承ってましたよね?」聞き間違いかと思って、私は足を止めました。名前入りのプレートは、もともと用意されていた。それを途中で外したのだと、その一言で分かってしまったのです。
そして...
家に帰る道中、私はずっと彼の今夜の様子を思い返していました。メニューを一度閉じて、また開いていたり、「ちょっと」と席を立ったあと、戻ってきてからおしぼりをいじっていた手、「あのさ、今日は......」と言いかけて、私の顔を見て引っ込めた声。あれは、何か大事なことを切り出そうとして、私の様子を見て引っ込めた人の顔だったのだと、ようやく気づきました。
連絡を減らしていたのは私のほうでもあったのですが、彼が引っ込めた言葉の裏に何があったのか、答えはまだ分かりません。それでも、家に着いた私は短いメッセージを送りました。「今日、何か言いかけてたよね。今度ちゃんと聞かせて。私からも、ちゃんと話したいことがあります。」画面が明るくなるのを待ちながら。
(20代女性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)


























