
大口取引先の社長として現れたのは、数か月前に切り捨てた友人の恋人でした
コラム
名刺を差し出す手前、顔でわかりました。あの日の話は、最後まで一度も出ませんでした。深く頭を下げたのは、私のほうでした。
友人の恋人が出て行った自動ドアを見送りながら、私は祝福の言葉より先に検索窓を開いていました。
冗談のふりで口にした本音
友人が、ひと回り上の恋人を紹介してくれた席でした。会社を経営していると聞いた瞬間、頭に浮かんだのは、うまくいっていない自分の毎日でした。友人の恋人が電話で席を立つと、私は経営者の年収を検索し、出てきた数字を友人に向けました。冗談に聞こえるよう、笑いながら言いました。「どうせお金目当てでしょ」「ひと回りも上って、普通に考えたらそういうことじゃん」。友人は「そういう目で見られてたんだ」と短く言って、それきり恋人の話をしませんでした。守りたいふりをして、置いていかれたくなかっただけでした。
大口取引の担当になって
学生のころから続く友人とのチャットは、用件だけになりました。謝る文面を何度か打ちかけて、消しました。受け入れてもらえなかったらと思うと、送れませんでした。そのころ会社で大口の新規取引が動き始め、担当は私になりました。先方の社長への挨拶が山場だと、上司から聞かされていました。
次のページへ
応接室に現れた社長


























