
彼女の日焼け止めを空にした俺、坂の上の薬局から向かった場所
コラム
隣町行きのバス
ビーチで彼女に借りようとしたのは、まだ軽く考えていたからです。「ごめん、それちょっと借りていい?」。返ってきたのは短い答えでした。「私も焼けたくないから」。あの一言を、そのまま返された気がしました。売店で一番高い日焼け止めを買いながら、これでは足りない、と思いました。彼女が使えるのは、あの1本だけでした。部屋で彼女が横になったあと、散歩に行くと伝えて、地図に印をつけた坂の上の薬局へ急ぎました。店員さんは、それならさっき売れてしまった、と言いました。同じ物を置く店は隣町に1軒。バスの中で、家の洗面台で何本も試しては棚に戻していた彼女の姿を思い出しました。
そして...
夕食の席で、紙袋と乗船券を差し出しました。「これ、取りに行ってた」。彼女は券と俺を順番に見てから言いました。「日焼け止めのことより、聞かずに使うことが嫌だったの」。その通りでした。「勝手に使ってごめん。次からは先に聞く」。頭を下げた俺に、彼女は紙袋から新しいチューブを取り出して見せ、小さく笑いました。今は俺のポーチにも、自分の日焼け止めが入っています。人の物に手を伸ばす前に、一言聞く。あの旅行で覚えたのは、それだけ大事なことでした。
(20代男性・会社員)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)

























