
「8月は無理」と返した私が、後期初日に知った友人グループの夏の旅行
コラム
「旅行だって、書いてなかったよ」。送信したあと、私は前期の終わりのやりとりを何度も読み返しました。抜けていたのは、相手の言葉だけではありませんでした。
後期最初の講義室で、隣の席のスマホに映っていたのは、私の知らない海でした。
私のいない写真
同じ学科で、入学のころから4人で動いていたグループがあります。講義の席取りも、昼の食堂も、たいていその顔ぶれでした。
後期初日、隣に座った2人がスマホを見せ合っていました。画面の中では、見覚えのある3人が同じ色の帽子をかぶって並んでいます。
「あの海、ほんとにきれいだったよね」
そう言ったのは、写真の左端にいる子でした。3人目は、私がいちばん仲がいいと思っていた友人です。その日、友人は講義に少し遅れて来て、写真の話がもう一度出ることはありませんでした。
私はノートの日付を書き直すふりをして、写真がしまわれるのを待ちました。
送信済みの2行
帰りの電車で、私は友人とのチャットを上へさかのぼりました。前期の終わりに、短いやりとりが残っています。
「8月の後半って、空いてる?」
「ごめん、8月は実家の手伝いで、ずっと無理そう」
「そっか、了解!」
それだけでした。何の予定かは書かれていません。私も聞いていません。実家の店の繁忙期を思って、先に断ることしか頭になかったのだと思います。
部屋に戻ってから、私は同じ画面に新しい文を打ちました。
「旅行、行ってたんだね」
既読はすぐに付きました。返信までの間、入力中の表示が出ては消えるのを、私は充電器につないだまま見ていました。
次のページへ
「書いてなかった」



























