彼女の手料理に文句ばかり言っていた俺が、母の味の正体を言えなかった理由

コラム

空になった箱と、彼女の言葉

数日後、テーブルについた俺は肉じゃがを口に運びました。「これ、母さんの味だ」言ってから、茶碗の横の箱が目に入りました。箸を置いて手に取り、裏面を彼女の方へ傾けました。彼女が皿を運びながら言いました。「お母さんに教えてもらったの。ずっとこれだったって。」俺は「言えるわけないだろ」と言ったものの、何が言えないのか、自分でもうまく説明できませんでした。母が市販の調味料を使っていたことなのか。それを恥ずかしいと思っていた自分のことなのか。彼女には何度でも違うと言えたくせに、その理由だけは言えませんでした。「私のには、ずっと違うって言えたのにね」彼女は自分の皿をカウンターへ運び、背中を向けて食べ始めました。俺は箱を手に持ったまま、キッチンの引き出しを見ていました。

そして...

翌日、帰宅すると、テーブルには彼女の分だけがありました。「これからは自分の分だけ作るね」俺は短くうなずきました。堪えたのは、俺の皿がないことより、彼女がもう俺のために作ろうと思っていないと分かったことです。最初は、何日かすればまた作ってくれるのではないかと思っていました。でも彼女は、怒っているというより作る気そのものをなくしているように見えました。コンビニの弁当を持って帰る日が2日続いて、俺は母に電話をかけました。彼女から連絡があったことを、母は先に話しました。「言ってなかったの?」言えなかった、とだけ答えました。母親の味と違うと言い続けながら、自分では一度も鍋の前に立たなかったと、その電話で初めて口にしました。同棲は続いています。別れを切り出されてもいません。また作ってほしいとは、まだ言える立場ではないと思っています。今、俺の手元には新しい箱が1つあります。母と同じようにそれを使うのか、自分で味を作るのか。それを考えながら、まず自分で肉じゃがを作るつもりです。

(20代男性・営業職)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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