「今月も小遣い足りないんだよな」と嘆く夫。財布から落ちたのは、高級フレンチ2名分の領収書でした

コラム

問い詰めた私に、夫は謝るばかりで、あの店に誰と行ったのかは言いませんでした。次の日から、夫の鞄にはラップで包んだおにぎりが入るようになりました。

インターホンが鳴ったとき、夫はまだ浴室にいました。「財布、玄関の棚にあるから払っといて」と声だけが届き、着払いの伝票を受け取ったのは私でした。札入れを開くと、折りたたんだ白い紙が1枚、足元に落ちました。

財布から出てきた、見覚えのない店の名前

拾い上げた紙は、レストランの領収書でした。駅の反対側にある、予約が取りにくいと評判のフレンチの店。「ディナーコース2名」の下に、28,600円と印字されていました。日付は先週、夫から帰りが遅くなると連絡があった日でした。

夫の小遣いは月3万円で、家計の管理は結婚したときから私の担当でした。毎月20日を過ぎたあたりで、夫は決まって「今月も小遣い足りないんだよな」とこぼしました。そのたびに、自分のランチをコンビニのパンに替えたり、美容院を1か月先に延ばしたりして、夫に渡す分を少しずつ足してきたのです。先月も、夫の財布に5,000円札を1枚入れたばかりでした。

宅配の支払いを済ませたあと、領収書だけをエプロンのポケットに入れました。

聞けば答えてくれると思っていた

夫が髪を拭きながらリビングへ戻ってくる前に、テーブルの真ん中に領収書を置いておきました。

「これ、何?」

夫はタオルを首にかけたまま紙を見下ろし、印字された日付を指でなぞっていました。

「ごめん、今は言えない」

返ってきたのは、それだけでした。誰と行ったのか、何のお祝いだったのか。聞きたいことはいくつもあったのに、先に口から出たのは別の言葉でした。

「足りないって、毎月言ってたよね。私、自分のお昼を削って足してたんだよ」

夫は目を伏せて、「ごめん」ともう一度だけ言いました。領収書をテーブルに残したまま、夫は寝室へ入っていきました。

  • X
  • Line