
彼女の昇進を素直に祝えなかった俺が、家賃を払えずにいた2カ月に考えていたこと
コラム
2カ月分の家賃と光熱費、彼女が買ってきた食材の分。何度足し直しても、手帳の最後のページの合計は同じでした。その金額を封筒に詰め終えるまで、俺は彼女に一度も礼を言えていませんでした。
取引先が離れそうだと聞いた日
彼女が昇進を報告してくれた日、俺は社長から、大口の取引先が離れそうだと聞かされていました。部屋に戻ると、同棲して2年になる彼女が辞令のコピーを差し出してきました。
「主任になったの。お給料も少し上がるんだ」
缶ビールを開けてから、俺はその紙に目を落としました。
「稼ぐ女は可愛くないよ」
口にしたあとで、自分が笑っていることに気づきました。彼女は紙を裏返し、流しで皿を洗い始めました。
父が母に向けていた言葉
あの言葉は、父の口癖でした。俺が中学生の頃、父の営む電器店が閉まり、母が毎日遅くまで働きに出るようになりました。母が職場の話をすると、父は笑って「稼ぐ女は可愛くないよ」と返す。やがて母は、食卓で仕事の話をしなくなりました。
ああはならないと決めていたはずでした。それなのに、会社が危ないと聞いた日に、同じ言葉を同じ顔で口にしていたのです。
1カ月ほどして、社長は事業をたたむと決めました。玄関で靴を脱ぐ前に「会社、今月で閉めるって」と伝えると、彼女はすぐに「家賃は私が払っておくね」と言ってくれました。俺が返せたのは、一言だけです。
「悪い」
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「悪い」で済ませ続けた理由




























