
彼女の昇進を素直に祝えなかった俺が、家賃を払えずにいた2カ月に考えていたこと
コラム
「悪い」で済ませ続けた理由
ありがとうと言えば、支えられる側に座ったと認めることになる気がしました。店を閉めたあとの父が、母に礼を言う姿を見た覚えはありません。その父と同じ椅子に座るのが怖くて、何を払ってもらっても「悪い」で済ませ続けました。
夕飯は向かい合って食べても、話しかけられれば「うん」と返すのがやっと。食べ終えるとすぐ奥の部屋にこもり、ノートパソコンで応募書類を書きました。スーツで面接に出かけた日も、行き先は告げませんでした。送った会社は20社を超えました。彼女が払ってくれた金額は、日付と一緒に手帳へ書き写しました。
そして...
新しい会社に決まったことは、夕飯の席で自分から話しました。その日から奥の部屋のドアは開けたままにして、ノートパソコンもリビングのテーブルに戻しました。最初の給料が出た日。手帳から書き写したメモをお札と一緒に封筒へ入れ、テーブルに置きました。
「助かった。ありがとう」
会社が閉まってから、ようやく言えたのはそれだけです。彼女は引き出しから紙を1枚出して、封筒の隣に置きました。あの日、裏返された辞令のコピーでした。紙に目を落とし、それから彼女の顔を見ました。
おめでとうも、あの言葉を取り消したいことも、まだ伝えられていません。手帳の空いたページには、彼女が前に行きたいと言っていた店の名前を書き足しました。2つとも、その店で伝えるつもりです。
(20代男性・会社員)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)






























