俺がいつも通路側の席に座るのは、学生時代のある失敗のせいでした

コラム

「なんで、いつも私が壁側なの?」と聞かれても、あの店の中では答えられませんでした。赤信号の横断歩道の前で、俺はようやく学生時代の話を切り出します。

隣のテーブルでグラスの触れ合う音がすると、つい音のほうを振り返ってしまう癖がありました。店に入れば、まず通路の幅を確かめます。彼女と出かけるときも、それは同じでした。ただ、その理由を彼女に話したことは一度もありません。

口ぐせの裏で探していた壁側の席

付き合って1年になる彼女と店に入ると、俺はまず「好きな席でいいよ」と言っていました。言いながら、目は壁側の席を探しています。彼女が通路側の椅子に手をかけると、先に壁側を指して「あ、こっちどうぞ」と笑う。それで済ませてきました。

一度、「なんで私ばっかりこっちなの?」と聞かれたことがあります。メニューから目を上げられないまま、「なんとなく」とだけ返しました。本当の理由を話せば、大げさだと笑われる気がしたのです。

彼女の後ろを通ったトレー

俺が予約した居酒屋で、トイレから戻ると、彼女が通路側の椅子に座っていました。そのすぐ後ろを、料理の皿を重ねたトレーを持った店員さんが、体を斜めにして通り過ぎていきます。上着を持ったまま、俺はテーブルの横で足を止めました。

「ごめん、代わってもらってもいい?」

口から出た声は、自分でも分かるほど低くなっていました。

「好きな席でいいって言ったよね」

「なんで、いつも私が壁側なの?」

どちらも、もっともな言葉です。けれど、すぐそばでは店員さんたちが忙しく料理を運んでいました。働いている人たちの前で、あの話はしたくありませんでした。

「ちゃんと話す。でも、帰り道でもいい?」

彼女はそれ以上聞かずに、壁側のベンチへ移ってくれました。彼女の取り皿にレモンを添えながら、どこから話せばいいのかばかり考えていました。

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学生時代のある失敗
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