
消し忘れたあのひと言で、隠してきた本音が全部さらけ出された
コラム
送るつもりのなかった一行を、消し忘れました。たったそれだけのミスが、俺がずっと隠し続けてきた感情を彼女の前にさらけ出してしまったのです。
書いては消す夜
彼女にメッセージを送るとき、俺はいつも二度書いています。一度目は、思ったことをそのまま打つ。
「今日もお前の声が聞きたかった」「帰り道、ずっとお前のことを考えてた」。
そういう言葉が指先から出てくるのに、送信ボタンを押す直前に全部消して、「了解」「おつかれ」に書き換える。それが俺のやり方でした。
父親がそうだったからです。家族に優しい言葉をかけているところを見たことがない。
「口じゃなくて態度で示せ」と言われて育った俺には、気持ちを文字にして送ること自体が、どうしようもなく怖かった。こんなことを書いたら引かれるんじゃないかと、いつも指が止まるのです。
あの日の送信ミス
あの夜も同じでした。残業が長引いて、彼女に連絡しようとスマホを開き、まず本音を打ちました。
「お前のどうでもいい話を聞いてる時間が、たぶん俺の一日で一番好きな時間だと思う」。いつもならここで全文を消し、用件だけに書き直す。
でもあの日は疲れ切っていて、上の行だけ消して打ち直したつもりでした。「今日遅くなる。ご飯は先に食べてて」。送信ボタンを押してから、もう一度画面を見て指が固まりました。消したはずの一行が、そのまま残っていたのです。
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「打ち間違い」という嘘


























