洗面台の下から体重計を出した俺が、彼女に見せたかった数字

コラム

3年間、会うたびに同じ言葉をかけていたのには理由がありました。それを彼女に話せたのは、やめてほしいと言われたあとです。カフェでケーキを頼まなくなったことにも、気づいてはいたのに。

洗面台の下の体重計は、この部屋に越してきた頃に買ったまま、ほとんど使っていませんでした。電池を替えたのも、たぶん一度きりです。彼女の前でそれを引っ張り出す日が来るとは、思ってもいませんでした。

祖母の家の玄関で聞いた言葉

子どもの頃、祖母の家へ行くと、玄関で必ず同じことを聞かれました。

「太った?」

祖母にとって、それは「ちゃんと食べて元気にしているか」を確かめる言葉でした。少しふっくらした孫を見ると、うれしそうに台所へ戻っていく。その背中が好きでした。

彼女と付き合い始めた頃、彼女の職場は繁忙期のさなかでした。昼はデスクでおにぎりを1つ食べるだけで、会うと疲れた顔をしていることがほとんど。「食べる時間がもったいない」と笑う彼女に、何と言えばいいのか分かりませんでした。

ほっとしたときの合図

繁忙期が明けて彼女の顔色が戻ってきたとき、口をついて出たのが祖母と同じ言葉でした。

「太った?」

俺にとっては、ほっとしたときの合図のようなものでした。それから会うたびに、元気そうな彼女を見ると同じことを聞くようになっていました。

しばらくして、カフェで彼女がケーキのページを開かなくなったことには気づいていました。遠慮しているのか、忙しい頃の癖が戻ったのか。どちらにしても放っておけず、自分のチーズケーキを半分、彼女のほうへ押しました。

「食べなよ」

自分の言葉のせいかもしれないとは、考えもしませんでした。

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