洗面台の下から体重計を出した俺が、彼女に見せたかった数字

コラム

言い訳より先に浮かんだもの

その日も、玄関でコートを脱ぐ彼女を見て、いつものように聞きました。

「太った?」

ハンガーを持ったまま、彼女がこちらへ向き直りました。

「毎回それ言うの、やめてほしい」

祖母の話から始めればいいのか、繁忙期の話をすればいいのか。どこから説明しても言い訳に聞こえる気がして、口を開けないまま洗面所へ向かいました。

頭に浮かんでいたのは、この3年で2人で入った店の数です。仕事帰りの定食屋も、彼女が行きたがったパン屋も、たいてい俺のほうが多く食べていました。増えた体重は、2人でちゃんと食べてきた記録のつもりでした。

洗面台の下から体重計を出して部屋へ戻り、床に置いて乗りました。

そして...

表示された数字を指さして、彼女に言いました。

「俺、3年で6キロ増えた」

「それ、私に関係ある?」

返ってきたのは、硬い声でした。体重計から降りて「幸せ太りなんだよ」と付け足しても、彼女の表情は変わりませんでした。

ハンガーからコートを外して、いつもより早く帰っていく彼女を玄関で見送りました。

出しっぱなしの体重計の前で、スマホを手に取りました。数字を見せても、伝わるはずがなかったのです。

祖母が玄関で同じことを聞いてくれたこと。繁忙期が明けた彼女を見て、ほっとしたこと。その安心を確かめたくて、同じ言葉を繰り返していたこと。長くなった文面の最後に「嫌な思いをさせてたのに、3年間一度も聞かなかった。ごめん」と打って、送信しました。

しばらくして届いた返信は、「話してくれてありがとう。でも、まだうまく飲み込めない」でした。

体重計は、洗面台の下に戻せないままでした。

(20代男性・会社員)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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