「片づけたら?」俺の一言で本を手放した妻へ、古書店で買い戻した本と一緒に用意していたもの

コラム

妻が本を売った翌日、駅前の古書店で見覚えのある背表紙を見つけました。両腕で抱えるほど買い戻した本のことを、俺はすぐには妻に話せませんでした。

巻き戻したメジャーの先が、床に積まれた本の山に当たって小さな音を立てました。妻の外出中に、リビングの壁の幅を測っていたところです。この壁いっぱいに本棚が入れば、床の本も全部収まるはずでした。

理由を言えないまま指さした本棚

下のほうの本を読みたくなるたび、妻は山を崩さないよう、上から順に下ろしていました。

妻の誕生日に向けて、俺は家具店で天井近くまである本棚を注文しました。届く日には、今の本棚を引き取ってもらう約束でした。

届く日までに、今の棚の本をいったん箱に移してもらう必要がありました。理由を話せば、贈り物のことまで話すことになります。迷った末、ある休日にソファから本棚を指さして、短く言いました。

「片づけたら?」

「うん、やってみる」

返事を聞いて、新聞に目を戻しました。本を箱にでも詰めてくれるのだろうと、思いこんでいたのです。

空いた棚を見て、言いそびれたこと

数日後、仕事から帰ると、床の山が消え、棚のあちこちに隙間ができていました。

「棚、だいぶ空いたね」

「お店に持っていったから」

少しのあいだ棚を見てから、着替えに自分の部屋へ入りました。ドアを閉めてから、自分の一言が妻にどう届いていたのかに気づいたのです。売ってほしいとは言っていない、と今さら伝えれば、自分で本を選んで売りに行った妻の決心を軽く扱うことになる気がして、その話には触れないまま食卓につきました。

翌日の仕事帰りに向かったのは、駅前の古書店でした。妻が本を持ちこむなら、そこだろうと思ったからです。

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