
「子どもの声がうるさい」と言われるのが怖くて謝り続けた私→ポストに入っていた便箋一枚
コラム
ある日、集合ポストに折りたたまれた便箋が1枚。外側には、部屋番号だけが書かれていました。開く前から、私は叱られる言葉ばかりを思い浮かべていました。
エレベーターの扉が開くたび、相手を確かめる前に頭を下げるのが癖になっていました。乗ってくるのが真下の部屋の女性なら、なおさらです。3歳の息子の手を握り直し、謝る言葉を用意しておく毎日。それがいつまで続くのか、自分でも分かっていませんでした。
集合ポストの前で言われたこと
このマンションに越してきて2か月ほどたった頃のことです。集合ポストの前で、真下の部屋に住む年配の女性に声をかけられました。
「上の部屋の方よね。走り回る音、下まで響くのよ」
隣では、息子が私の手を握ったまま女性を見上げていました。
「すみません、気をつけます」
頭を下げると、女性はうなずき、郵便物を手に部屋へ戻っていきました。怒鳴られたわけではありません。それでも部屋に帰ってからしばらく、フローリングの木目ばかり目で追っていました。
その週のうちにリビングへジョイントマットを敷き詰め、息子が駆け出すたびに「歩こうね」と声をかけるのが私の役目になりました。夫には気にしすぎだと笑われても、やめる気にはなれなかったのです。
焼き菓子の箱と「すみません」の毎日
翌日には、焼き菓子の箱を持って下の部屋を訪ねていました。
「先日は本当にすみませんでした」
「ご丁寧に、どうも」
女性は箱を受け取ると、短くそう言ってドアを閉めました。
それからは、エントランスでもエレベーターでも、女性に会うたびに頭を下げました。息子の手を引いて、足早に通り過ぎることもありました。今度会ったら「子どもの声がうるさい」と言われるのではないか。そう思うと、先に謝っておかないと落ち着かなかったのです。息子もいつの間にか、人差し指を口に当てるしぐさを覚えていました。
ある日、エレベーターで女性と乗り合わせました。扉が閉まると、息子が指を口に当てて私を見上げました。
「しーっ、だよね」
「すみません、うるさくて」
女性は扉の上の数字を見たまま、2階で降りていきました。
それから数日後、集合ポストを開けると、チラシの上に折りたたまれた便箋が1枚のっていました。外側には、ボールペンで「202」とだけ。真下の部屋の番号でした。
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便箋に書かれていた一行


























