
「子連れに苦情を言った私」が昔の自分を思い出してお手紙を書いた理由
コラム
便箋に残せなかった昔の話
団地に住んでいた頃、下の階の人から何度も苦情を言われたものです。会うたびに謝り、息子には口に指を当てて見せ続けました。そのうち息子は、家の中で大きな声で笑わない子に。大人になった今も、電話の声は小さいままです。
あの母親に同じことをさせているのは、ほかでもない私でした。
その日から、何度も便箋に向かいました。昔の話、言いすぎたことへのおわび、気にしないでほしいという気持ち。けれど読み返すと、どれも若い母親にもう1つ荷物を背負わせるようで、何枚も破りました。最後に残ったのは、一行だけです。
「もう謝らないでください」
名前は書かず、折りたたんだ便箋の外側に部屋番号だけを書いて、上の部屋のポストに入れました。
そして...
それから、エントランスで会っても、母親は「すみません」と言わなくなりました。頭だけを下げて通り過ぎる彼女に、私も会釈を返すだけです。昔の話をしたい気持ちはあっても、まだ切り出せないまま。ただ先日、天井の向こうから、男の子の笑い声が一度だけ聞こえました。テレビの音を少し下げて、それが止むまで聞いていました。
(70代女性・無職)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)



























