
隣に越してきた女性の挨拶に、目をそらし続けた私→管理会社からの電話で決めていたこと
コラム
鈴のついた鍵と、聞けなかった言葉の続き
ある日、仕事から帰ると、隣の部屋のドアに鍵がささったままになっていました。鍵穴の下で、小さな鈴が揺れていました。
放っておくわけにはいかない。けれど、隣の女性の部屋のチャイムを押すのは、あの電話以来、一番避けてきたことでした。ドアの前でしばらく迷ってから鍵を抜き、チャイムを押しました。
ドアが開くと、私は手のひらにのせた鍵を差し出しました。
「鍵、ささったままでしたよ」
「すみません、ありがとうございます」
隣の女性がそう言って鍵を受け取ると、鈴が小さく鳴りました。
「あの、いつも」
何か言いかけた隣の女性を、私は「気をつけて」と遮りました。話し込めば、また同じことになる。そう思って、すぐに部屋へ戻りました。
そして...
翌日、外階段で隣の女性に「こんにちは」と声をかけられました。私はまたちらりと見ただけで、階段を下りてしまいました。
あのとき聞けなかった「あの、いつも」の続きは、たぶん文句ではなかった。そんな気がしていました。
数日後、集合ポストの前で隣の女性と会いました。「こんにちは」と言われて、今度は顔を上げて「こんにちは」と返しました。
隣の女性は一瞬目を丸くしてから、笑って頭を下げました。話しかけないことが気づかいだと思っていましたが、挨拶を返すくらいなら、誰の負担にもならなかったのです。
「あの、いつも」の続きは、まだ聞けていません。それでも、聞く機会はこれからいくらでもあります。お隣なのですから。
(60代男性・設備管理)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)




























