「うん、そのうちね」付き合って1か月の彼の誕生日に焼いたケーキが、箱も開けずに冷蔵庫の奥へ

コラム

「今、開けないの?」と聞いた私に、彼は短く答えただけでした。甘いものが好きだと聞いていたのに、本当はケーキが苦手だったのかもしれない。眠る彼の隣で、私はスマホの検索画面を開いていました。

翌朝、冷蔵庫を開けると、紺のリボンをかけた白い箱が、渡したときの形のまま奥に置かれていました。彼の誕生日に、私が渡したガトーショコラです。ひと晩たっても、その箱は一度も開けられないままでした。

3回焼き直したガトーショコラ

彼と付き合い始めて1か月。初めて迎える彼の誕生日に何を渡すか、散々迷いました。甘いものが好きだと聞いていたので、選んだのは手作りのガトーショコラです。

1回目は真ん中が沈み、2回目は焦げた匂いが台所に残りました。3回目でようやく形になったものを白い箱に入れ、紺のリボンをかけたのは誕生日の前日のことです。

当日は外で食事をしてから彼の部屋へ行き、箱を差し出しました。

「誕生日おめでとう。ガトーショコラ、作ってみたの」

「え、俺に?」

彼は箱を両手で受け取り、リボンの結び目をしばらく眺めていました。

開けられないまま冷蔵庫の奥へ

「ありがとう。ちょっと冷やしとくね」

彼はキッチンへ行き、冷蔵庫を開けました。麦茶のポットを端に寄せて、箱をそのまま奥へ。

「今、開けないの?」

「うん、あとでゆっくり」

冷蔵庫の扉が閉まる音を聞きながら、私は空になった両手をコートのポケットに入れました。

そのあとは2人で映画を見ました。ケーキの話は、彼の口から一度も出てきません。途中で彼が一度だけ冷蔵庫のほうを見ましたが、すぐに画面へ視線を戻しました。

甘いものが好きだと聞いたのは、私の思い違いだったのかもしれない。本当はケーキが苦手で、受け取った手前、言い出せなかったのかもしれない。隣から寝息が聞こえ始めてからも、スマホで「彼氏ケーキ苦手」と検索しては画面を閉じていました。

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