「後ろに並んでください」と横の女性を睨んだ私→店員の一言で列の先頭のまま頭を下げた理由

コラム

扉が開いて店員が呼んだのは、列の先頭に立つ私ではありませんでした。横の女性が差し出した小さな紙を見て、私は扉の脇の貼り紙に目を移しました。後ろの視線が背中に集まっていました。

焼き菓子店の店先で、私は列の先頭に立っていました。スマホのメモを開き、母に頼まれたプリンの数を確かめていたときです。横の通りから来た女性が列の脇を歩いてきて、私のすぐ横で足を止めました。後ろではなく、横でした。

「後ろに並んでください」と言いました

女性は入口の柱の前に立ち、手の中の紙を握り直しただけで、列に目を向けませんでした。先頭の私が黙っていたら、後ろの人たちに割り込みを許したことになります。私は女性の横顔を見つめてから、口を開きました。

「後ろに並んでください」

女性が振り向き、私を見て言いました。

「すみません」

それだけでした。列の最後尾へ向かうこともなく、同じ場所に立っています。謝れば済むと思っているのだと受け取り、私は声を少し大きくしました。

「みんな並んでるんですけど」

女性は紙を持ったまま、扉のほうへ視線を戻しました。私は返事を待ちながら、その横顔を睨み続けていました。後ろの人は誰も何も言いませんでした。

店員が先に呼んだのは、私ではありませんでした

扉が開いて、店員が顔を出しました。

「整理券をお持ちのお客さま、お先にどうぞ」

女性が手の中の紙を差し出しました。折り目のついた小さな紙に、番号が印字されていました。店員はそれを確かめ、女性を店内へ通しました。

扉が閉まる前に、女性がこちらを振り返りました。私はその視線を受けたまま、扉の脇に目を移しました。小さな字の貼り紙がありました。「整理券をお持ちの方は入口脇でお待ちください」。私が立っていたのは、整理券のない人のための当日販売の列でした。女性は最初から、この列に入る必要がなかったのです。

「みんな並んでるんですけど」と言ったときの自分の声が、そのまま耳に残っていました。後ろの人たちも、あの貼り紙を見ていたのかもしれません。

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