「お父さんも同じことを言ってたわよ」と実家の母に笑われた俺が、彼女の弁当にスマホを向けるまでの事情

コラム

「お父さんも同じことを言ってたわよ」。電話口で母が笑いながら教えてくれた話に、俺は冷蔵庫の中の弁当箱を思い浮かべていました。

実家の母から電話があったのは、彼女と暮らし始めて半年が過ぎた頃でした。近況を話すうちに、俺は数日前に口にした言葉をそのまま伝えていました。母の返事は、思っていたものとはまるで違ったのです。

母に言われたこと

「俺は結婚しても家事はしないから」

彼女にそう言ったのは、子どもの頃から父の口癖を聞いて育ったからです。言ったあと、彼女が黙ってリモコンを置いたのは見ていました。

電話でその話をすると、母は笑いました。

「お父さんも同じことを言ってたわよ。でも、私の作ったお弁当だけは、毎日残さず食べて、箱を洗って返してくれたの」

それが父なりの返事だったそうです。電話を切ってから冷蔵庫を開けると、彼女が詰めた弁当が入っていました。

食べて、洗って

彼女の弁当を食べたことは、一度もありませんでした。毎日作っているのを知りながら、中身すら見たことがなかったのです。

次の日の朝、その弁当を冷蔵庫から出して会社へ持っていきました。卵焼きは甘めで、ごぼうの炒め物には胡麻がたくさんかかっていました。帰ってから箱を洗い、水切りかごに伏せておいたのです。

「うまかった」としか言えなかったのは、謝るより先に、味の話をしたかったからでした。彼女の分がなくなることまで、頭が回っていなかったのです。

翌週にもう一度食べたのは、卵焼きの甘さを確かめたかったからでした。「食べるなら先に言って」と言われても、理由を話せずに「うん」とうなずくだけだったのです。

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