
「家賃は全部俺が払う」と言った俺が、彼女のスマホの画面で初めて知ったこと
コラム
半年かけて作ったメモの表には、彼女の今の数字が1つも入っていませんでした。払う側だから決めていい。その考えが誰の口癖から来ていたのか、カウンターの前で気づかされました。
隣で、彼女が財布の留め具を外す音がしました。俺の免許証の隣に置かれたのは、彼女の免許証。その少し前、俺は担当者の前で、家賃は全部自分が払うと言い切っていました。
半年分の数字
彼女と一緒に暮らそうと決めた半年前から、スマホのメモに家賃の表を作っていました。
家賃が9万円なら、11万円なら。彼女が前に話してくれた書店のおおよその手取りから、半分を払った場合に手元に残る額を、条件を変えて何通りも計算しました。どの行を見ても、残るのはわずかな額でした。
だから家賃は俺が全部持つ。そう決めた時点で、部屋も俺の職場の近くでいいと思っていました。残業で帰りが遅くなるのは俺のほうで、払うのも俺なのだからと。
「お前の稼ぎじゃ無理」は、実家で何度も聞いた言葉です。家族旅行も冷蔵庫の買い替えも、パートに出ていた母が意見を言うと、父がそう言って話を終わらせていました。母は「そうね」と笑って、台所へ戻っていったものです。
あの言い方だけはしない。ずっとそう決めていたはずでした。
カウンターで出てしまった言葉
左の紙を指先で2回たたいて、俺は言いました。
「家賃は全部俺が払うから、俺の職場に近いほうにしよう」
身分証を求められて免許証を置くと、その隣に彼女の免許証が並びました。
「私名義で契約させてください」
「家賃全部払えるんでこちらの家にします」
右の間取り図が担当者のほうへ滑っていくのを見ながら、頭の中にメモの数字が並びました。9万円を1人で払えば、彼女が毎月楽しみにしている新刊を買う余裕もなくなる。そう思ったときには、口が先に動いていました。
「お前の稼ぎじゃ無理」
父と同じ言い方でした。隣の彼女の顔は、見られないまま。
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傾けられたスマホの画面

























