「あの人、元気ですか」元彼の恋人が教育係だと知った日、私が先輩の目を見てそう聞いた理由

コラム

用意していたのは、当たり障りのない一言でした。けれど先輩の目を見たとき、口から出たのは別の言葉でした。その質問には、元彼に一度も伝えられなかった思いが残っていました。

課長に連れられて歩くフロアの奥で、見覚えのある顔がこちらを振り向きました。課長が足を止めたのは、その人の机の前でした。名刺を差し出しながら、最初に何を言うべきか、まだ決めかねていました。

二次会の端から見ていた2人

元彼とは、大学の3年間付き合いました。就職活動がうまくいかなかった時期、優しくされるほど自分が情けなくなり、「一緒にいると疲れる」と言って別れを切り出したのは私でした。理由を何度も聞いてくれた彼への返信をやめ、連絡先も消しました。

1年前、共通の友人の結婚式の二次会に、彼が来ていました。隣には、彼のグラスが空くたびに店員さんを呼んでいる女性がいました。話しかける勇気はなく、会場の端から2人が笑うのを見ていただけでした。

その女性が、転職先で私の教育係になっていました。

用意していた一言とは違う質問

課長が「あとはよろしく」と会議室へ向かったあと、言うなら今しかないと思いました。同じ職場で働けば、共通の友人を通して、いつか先輩の耳に入るかもしれません。知らないところで知られるより、自分の口から伝えるほうがいいと考えていました。

用意していたのは「大学のときの知り合いなんです」という、当たり障りのない一言でした。ところが先輩の目を見たとたん、口から出たのは別の言葉でした。

「あの人、元気ですか」

「あの人って?」と聞き返されて、ようやく自分が何を聞いたのかに気づきました。

「今お付き合いされている方です。大学のとき、私が付き合っていた人なんです」

「急にすみません。よろしくお願いします」

頭を下げると、先輩は「こちらこそ」と返して、共有フォルダを開きました。その日は、教わった手順をノートに書き写すことだけに集中しました。

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