
配達員の俺が、あの家の置き配写真にだけ花壇を入れ続けた理由
コラム
花の写真にお礼のメッセージが届いた日、打ちかけた返事を消して別の言葉を送りました。最後の配達の日になっても、本当の理由は書けないままでした。
両手に段ボールを抱えたまま、同じ色の玄関ドアが3つ並ぶ通りで表札を見比べました。門柱の形も、表札の小ささも、3軒ともほとんど変わりません。この区域の担当になった最初の週、俺はここで1度、荷物を隣の家に置いていました。
1軒隣に置いた箱
気づいたのは、完了報告を送る前に、撮った写真を確かめたときでした。写真に写った表札の番地が、伝票の住所と1つずれていたのです。
すぐに引き返し、隣の家の前から箱を回収して、正しい家の玄関に置き直しました。誰にも気づかれずに済んだのは、運がよかっただけです。
それから、正しい家を見分ける目印を探しました。3軒の中で違っていたのは、その家の玄関脇にある小さな花壇だけ。紫と黄色のパンジーが咲いていました。
以来、あの家に置き配をするときは、箱を花壇の手前に寄せ、花が切れずに入る位置まで下がって撮るようにしました。この家で間違いないと、自分に確かめるための写真です。
目印のつもりだった
初夏のある日、花壇が黄色一色に変わっていました。目印が消えたのかと思い、表札を2度確かめてから、背の高くなった花に合わせてスマホを少し上に向けました。
配送アプリのメッセージ欄に、そのお客さんから連絡が届いたのは、それから間もなくのことです。コンビニの駐車場にトラックを止め、休憩に入ってから開きました。
「いつもお花まで一緒に撮ってくださってありがとうございます!通知が来るのがちょっと楽しみになってます」
花のために撮っていたつもりはありませんでした。目印にさせてもらってます、と打ちかけて、送信する前に消しました。知らない配達員が自分の家の花壇を目印にしていると知ったら、いい気はしないかもしれない。代わりに送ったのは、これだけです。
「こちらこそ、いつもきれいに咲いていて助かっています」
嘘にならない言葉を選んだつもりでした。その日から、あの家の前では花の色を先に確かめるように。次は何が咲くのか、少し待っている自分がいたのです。
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撮り直したコスモス



























