「俺が運転するから」と言った彼→私の車の運転席に座ったのに、助手席へ

コラム

運転席でキーを握ったまま、ハンドルに伸びかけた手を膝に戻した彼。そのまま彼が口にしたのは、いつもの言葉とは逆のものでした。

アパートの駐車場に、先月届いたばかりの白い軽自動車が止まっていました。貯金をはたいて買った中古車で、初めての遠出は彼と海へ行くと決めていたのです。ところが運転席のドアに手をかけた私を、彼はいつもの言葉で止めました。

いつもの「俺が運転するから」

付き合って2年になる彼は、出かけるたびに運転を引き受ける人でした。カーシェアでもレンタカーでも、私が運転席に向かうと先に回り込んできます。
「俺が運転するから」
免許を取って1年の私は、そのたびに助手席へ移っていました。ありがたいと感じる日もありましたが、任せてもらえない寂しさのほうが大きくなっていたのです。
だからこそ、自分の車を買えたときはうれしいものでした。ルームミラーには納車の日から小さなお守りを下げ、シートもミラーも自分に合わせてあります。
それなのに彼は、この日も手のひらを差し出してきました。

私の車なのに

「今日は私が運転したい」
そう言っても、彼は「慣れてないだろ」と笑うだけでした。言い合いになるのが嫌で、結局キーを渡しました。せっかくの遠出を、出発前から重たくしたくなかったのです。
彼は運転席に乗り込み、シートを少し後ろに下げました。私も助手席に座り、シートベルトを締めます。ところが、いつまで待ってもエンジンがかかりません。
横を見ると、彼はキーを握ったまま、ルームミラーのあたりを見上げていました。ハンドルに伸びかけた手は、いつの間にか膝の上に戻っていたのです。

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