
すぐに芝居だと気づいた俺が、恋人の友人に帰ってもらった事情→テーブルに置いた紙袋の中身
コラム
ソファの端に座る男の顔を、俺は知っていました。恋人がスマホで何度も見せてくれた、大学のゼミの集合写真に写っていた顔だったのです。
細長い紙袋の持ち手を何度も握り直しながら、インターホンを押しました。付き合って5年になる恋人の部屋に来るのに、こんなに緊張したのは初めてです。袋の中には、花束と小さな箱が入っていました。
ソファの端にいた男
ドアを開けた恋人の後ろに、男が1人座っていました。
その顔には、見覚えがあったのです。今でも相談に乗ってくれるゼミの友人だと、恋人がよく話していた人です。
「紹介するね。新しい彼氏」
恋人の話し方は、いつもより少し早口でした。
恋人の友人は「どうも」と頭を下げました。その下げ方がぎこちなく、俺にはすぐに分かったのです。これは、恋人が頼んだ芝居なのだと。
5年分の返事
芝居だと気づいても、怒りは湧いてきませんでした。思い当たることがあったからです。
付き合って5年、恋人に将来の話をされるたびに、俺は「そのうちね」と流してきました。恋人は、俺の気持ちを確かめたかったのだと思います。
今日、その返事をするつもりでした。紙袋をテーブルに置いたのも、もう先延ばしにしないと決めていたからです。
けれど、その場面に恋人の友人を立ち会わせるわけにはいきません。芝居に付き合ってくれた人に、俺たちの話の続きを見せるのは違うと思ったのです。芝居を頼むほど恋人を追い詰めたのは、俺のほうでした。
次のページへ
ドアを押さえた理由


























