
隣の赤ちゃんの泣き声に理不尽な苦情を送った私を、受験生の息子が責めた日
ライフスタイル
私が送ったのは、3度打ち直した末に「すみません」を削った文面でした。既読のまま返信のない画面と、閉じたままの息子の部屋のドアを、私は交互に見ていました。
壁の向こうで泣き声が始まると、息子の部屋から椅子を引く音がしました。
削った「すみません」
隣に若い夫婦が越してきたのは、息子が中学最後の夏を迎える少し前でした。挨拶に来た奥さんとは、そのとき連絡先を交換しています。生まれたばかりの赤ちゃんがいることも聞いていました。泣き声は、息子の机の真後ろの壁から聞こえていました。息子は一度も「うるさい」とは言いませんでした。ただ、泣き声が始まるとイヤホンをするところをよく見かけました。受験を控え、塾から夜遅く帰ってきて、それから机に向かう日もあります。そんな姿を見ていたせいで、ドアを閉めるのも集中できないからだと勝手に受け取っていました。私は隣の奥さんの連絡先を開き、文面を打ちました。最初は「すみません」から始めました。それでも、遠慮した書き方ではこちらが困っていることが伝わらない気がして、打ち直すうちにその言葉を削りました。
「うちの子勉強してるから、もう少し抑えてくれる?」
送信したあと、やはり「すみません」と付け足そうとしました。けれど、今さら送れば取り繕っているようにも思えて、途中まで打った文を消しました。
既読だけが残った画面
返信は来ませんでした。既読はついたまま、その晩も何度か壁の向こうから泣き声が聞こえました。息子には、メッセージのことを話さないつもりでした。翌日、塾へ出かける息子を玄関で見送っていると、また隣から赤ちゃんの泣き声が聞こえてきました。私はそこで、つい口にしてしまいました。
「昨日、隣に少し抑えてもらえないか連絡したから」
息子は靴を履きかけたまま私を見ました。
「なんで送ったの」
私が答えられずにいると、息子はこう続けたのです。
「俺、赤ちゃんのせいにしたくないんだけど」
そのままカバンを持って出て行く息子を、私は引き止められませんでした。ドアが閉まったあと、私は玄関に残ったままスマホを開きました。しばらくすると、通知が2回続きました。
「泣くのを止めるのは、私にも無理です。」
「ベッドを壁から離してみます。息子さんの机はどちら側ですか。」
私はその返信を、息子の言葉を思い出しながら読みました。
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「北側です。」




























