
「今日のだけ?」と聞かれるまで、俺は自分が気が利く側だと思っていました
コラム
「でも」と言い返した帰り道
レジで、その店員が出てきて、彼女の前で頭を下げました。「先ほど、小鉢を間違えてしまって、すみませんでした。そのまま召し上がってくださって、ありがとうございました」。彼女は「いえ、冷奴も好きなので」と答えました。俺が電話をしていた間に小鉢が間違って届き、彼女はそれを言わずに食べていた。俺が知らない出来事が、俺の見ていない間にあったのです。それでも駅までの道で、俺は先に口を開きました。「でも、上着をよけなかったのは事実じゃん」「そうだね」「じゃあ俺、間違ったこと言ってなくない?」。彼女は歩く速さを変えずに答えました。「間違ってるかどうかじゃなくて、人前で私をそういう人みたいに笑うのが嫌だった」。俺は前を向いたまま歩きました。あの飲み会で先輩が俺にしたことと、自分が彼女にしてきたことが、そこで初めて重なりました。
そして...
自販機の前で足を止め、水を2本買いました。1本を彼女に差し出して、「さっきの、取り消す」と言いました。「取り消すって、何を?」「気が利かないってやつ」。彼女は水を受け取ってから聞きました。「今日のだけ?」。ふたを開けかけた手を戻して、しばらく彼女を見ていました。2年の間、人がいる場所で何回この言葉を使ったのか、数えられません。「今までのも」。そう答えて、水を飲みました。次に同じ言葉が出そうになったら、彼女に「今日のだけ?」と聞かれた場面を思い出したいと思います。
(20代男性・営業職)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)




























