
デートのたびに「先に乗って。俺は次ので帰るから」と言う彼。引き返したホームで見たもの
コラム
次の電車はとっくに出たはずのホームで、彼はまだベンチに座っていました。「忘れないうちに、書いておきたくて」。何を書いていたのかは、教えてくれませんでした。
電車のドアが閉まる直前、窓の向こうの彼はもう手元のスマホに目を落としていました。デートの帰りに彼が私を先に乗せるのは、いつものことでした。ただその日、彼の顔は一度も電車のほうを向きませんでした。
先に乗せて、次の電車を待つ彼
付き合って7か月になる彼とは、同じ路線に住んでいます。私の駅のほうが手前で、本来なら同じ電車で帰れる距離です。それでも3か月を過ぎた頃から、別れ際の彼は決まってこう言うようになりました。
「先に乗って。俺は次ので帰るから」
一度だけ「一緒に乗ればいいのに」と返したことがあります。彼は笑って首を振り、ドアの開いた車両へ私を促しました。はじめのうちは、見送ってもらえるのがうれしかったのです。窓から手を振れば、彼も手を上げて返してくれました。
ところがここ数回、手を振っても返ってこないことが続いていました。誰かに連絡しているのだろうか。私と別れた直後に、急いで伝えたい相手がいるのだろうか。窓に映る自分の顔を見ながら、帰り道はその想像ばかりが膨らんでいきました。
隣の駅で降りて、来た道を引き返しました
次のデートの帰りも、彼は同じ言葉で私を電車に乗せました。ドアが閉まり、電車が動き出します。隣の駅で降りて、反対側のホームへ階段を駆け上がりました。戻りの電車を待つ間、もし見つかったときの言い訳を頭の中で組み立てては崩していました。
元の駅に着いたのは、別れてから15分ほどあと。向かいのホームに目をやると、端のベンチに彼が座っていました。次の電車はとっくに出ているはずでした。
彼はうつむいたまま、スマホの上で親指を動かし続けていました。ときどき手を止めては線路の先を見て、また打ち始める。その視線の先は、私が乗っていった電車の行き先の方角でした。
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「忘れないうちに、書いておきたくて」




























