「暇なのかな」と聞こえた交差点。旗を買った元トラック運転手の俺が、あの子に教えたこと

コラム

1人で帰ってきた女の子を呼び止めた日、向かいで待っていた母親が走って渡ってきました。毎日立っているのかと聞かれ、口から出たのは本当の答えではありませんでした。

ホームセンターの棚から、一番目立つ黄色の旗を選んでレジに置きました。40年トラックに乗り、定年で会社を辞めた翌月のことです。旗を持って向かったのは、ハンドルを握っていた頃からずっと忘れられずにいた交差点でした。

ミラーの端に映った黄色いカバー

まだ4トントラックで配送を回っていた頃、あの交差点を曲がろうとしたときのことです。左のミラーの端に、黄色いものがちらりと映りました。電柱の陰から出てきた、1年生のランドセルのカバーでした。

思いっきりブレーキを踏み、運転席から飛び降りました。女の子は歩道の端で尻もちをついて泣いていましたが、けがはありませんでした。それからは、あの角を曲がるたびに速度を落としました。

今は倉庫で検品のパートをしています。仕事を終えると家には寄らず、子どもたちが帰ってくる頃の交差点へ向かいます。誰かに頼まれたわけではありません。

腕章のない旗振り

子どもが通らない間は、折りたたみ椅子に座って待ちます。宅配の車が停まれば、窓越しに運転手へ声をかけます。昔の同僚も多く、笑って話し込むこともありますが、最後は必ず「この角は子どもが出てくるから、ゆっくりな」と頼むのが決まりでした。

春休みで子どもの姿がない日も、足は交差点へ向きました。その日、母親と女の子が信号待ちで俺のすぐ横に並びました。女の子が「あのおじさん、だれ?」と聞き、母親が答えます。

「暇なのかな」

腹は立ちませんでした。腕章もない男が毎日立っていれば、そう見えるのも無理はありません。青になると、いつもどおり旗を横に出しました。気になったのは、女の子の背中の真新しいランドセルです。

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