
「暇なのかな」と聞こえた交差点。旗を買った元トラック運転手の俺が、あの子に教えたこと
コラム
電柱の陰から走り出した女の子
入学してしばらくたった頃、あの女の子が1人で歩いてきました。向かいのコンビニの前には、あの母親の姿も見えます。信号が青に変わった瞬間、女の子が電柱の陰から走り出します。曲がってくる軽トラックが目に入り、体が先に動きました。
「止まって!」
前に出て旗を突き出すと、女の子は歩道の端で止まり、軽トラックも手前で止まりました。運転手が片手を上げて曲がっていきます。
しゃがんで電柱を指さし、「ここで1回止まって、運転してる人の顔を見るんだぞ」と話すと、女の子は黙ってうなずきました。次の青で、母親が走って渡ってきます。
「ありがとうございました」と頭を下げられ、立ち上がって隣の電柱に手を置きました。
「運転席からだと、この電柱の陰は見えないんですよ」
「毎日、ここに立ってらっしゃるんですか」
「暇ですから」
笑ってそう答え、旗の柄を持ち直しました。ミラーに映った黄色の話をすれば、この人を怖がらせるだけです。春休みに聞いた言葉を借りるのが、一番軽く済むと思いました。
そして...
それから女の子は、電柱の横で1回止まり、曲がってくる車の運転席を見上げてから渡るようになりました。母親も通るたびに「こんにちは」と頭を下げていきます。俺は旗を少し上げて返すだけで、あの日の本当の答えはまだ話していません。
倉庫から戻った足で、旗の柄に巻いたテープを巻き直しました。いつか話すのかどうかは、自分でも決めていません。
(60代男性・倉庫スタッフ)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)






























