
俺が妻に聞けずにいたことを、職場の先輩が代わりに送っていた話
コラム
「うん、元気そうだったよ。余計なことしたかな」。寝室で受け取った先輩の返信を読み、打ちかけた言葉を消して、短いお礼だけを送りました。妻の返信の見え方が、少し変わり始めていました。
社員食堂の列に並びながら、妻から届いた返信を読み返していました。「平気!ありがとう」。普通に見える返信が、なぜか引っかかっていました。その話を、隣にいた先輩にしてしまいました。
布をかけられたホームベーカリー
妻の帰りが遅くなったのは、この春に部署が変わってからです。休みの日に焼いていた食パンも、しばらく焼いていません。ホームベーカリーには、いつのまにか布がかかっていました。
口で「最近大丈夫?」と聞くと「平気平気」と笑われ、メッセージで「帰り遅いけど、大丈夫?」と送ると「平気!ありがとう」の返事。3度目は聞けませんでした。同じ返事が来たら、その先にかける言葉がなかったからです。
「最近、妻がパンを焼かなくなって」とこぼすと、先輩は「私から軽く聞いてみようか?」と言いました。去年のバーベキューで、先輩は妻と連絡先を交換していました。俺は笑っただけで、断りも頼みもしないままでした。
妻の返信についていた、見覚えのある記号
数日後、帰宅すると、妻が先輩から来たと言ってソファでスマホを差し出しました。受け取った画面を上へ戻し、下まで読み進めると、先輩の「元気?」の下に、妻の「元気ですよ!お久しぶりです。何かありましたか?」が並んでいました。
先輩は本当に送っていたのです。そして妻は、先輩にも「!」をつけて返していた。俺に「平気!」と返したときと同じ記号です。
妻は、誰に聞かれても同じように返すのかもしれない。俺はその返事をもう一度聞くのが怖くて、自分で聞く代わりに、先輩が送るのを止めなかった。そう気づいたとき、自分がどんな顔をしていたのかは分かりませんでした。
「これ、なんて返したの?」
画面に答えは出ているのに、そう聞いていました。普通に元気だと返した、と答える妻の声を聞きながら、妻の返信のところをもう一度読み返しました。仕事の連絡だと言ってスマホを返し、自分のスマホを持って寝室へ。
次のページへ
寝室で打っては消した言葉




























