
彼女との通話に女性の声が入った瞬間、俺の口から出たのはいつもの言い訳でした
コラム
言い直すなら今だと分かっていました。それでも、一度口にした言葉を引っ込められないまま、俺は送信欄にもう1つの言い訳を打ち込みました。
玄関のチャイムが鳴ったのは、彼女との通話を始める少し前でした。ドアの前に立っていたのは、大きな紙袋を2つ提げた姉です。その姿を見た時点で、ただ遊びに来たのではないと分かりました。
紙袋を2つ提げてきた姉
姉は2つ上で、結婚して隣の市で暮らしています。義兄とけんかになり、しばらく泊めてほしいと言いました。
「あの人には、自分から連絡するから」
姉が浴室に入ってすぐ、いつものように彼女から着信がありました。週末のもみじ狩りの待ち合わせ場所を決めかけたところで、浴室のドアが開く音がしました。
「ねえ、タオルどこ?」
口のほうが覚えていた言葉
「テレビだよ」
考えるより先に、そう言っていました。
以前は、彼女と通話している最中に、大学の友達が部屋に集まっていることがよくありました。女友達の笑い声が入るたびに、説明が面倒で「テレビ」で済ませていたのです。そういう集まりはもうなくなりましたが、口が無意識に動いていました。
次の瞬間、通話は切れていました。かけ直しても、呼び出し音が続くだけです。
相手は姉です。最初から言えば済む話でした。けれど、テレビと言ったあとで姉だと言い直しても、かえって作り話に聞こえる気がしました。
「急に切れたけど大丈夫?」
しばらくして返事が届きました。
「テレビって、何の番組?」
番組名までは浮かばず、ドラマとだけ打って、言い訳を1つ足しました。
「ドラマ。音量上げたままだった、ごめん」
「そっか」
短い返事を見て、これで済んだと思ってしまいました。
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スタンプばかりの返事




























