
彼女の服を否定し続けた俺が、母の前で答えに詰まった本当の理由
コラム
母の前で、俺は短く答えることしかできませんでした。彼女に伝えられずにいたのは、服のセンスとは関係のない、ごく単純なことです。
改札を抜けて歩いてくる彼女は、今日もゆったりとした紺のブラウスを着ていました。大きめの形が彼女の体つきに合っていないのは、ひと目で分かります。言うべきことは分かっていたのに、口から出たのはいつもの短い言葉でした。
母の店で身についた目
「その服、似合わない」
そう言って、俺は先に歩き出しました。後ろから、彼女がついてくる足音が聞こえます。
俺の母は、この街の商店街で小さな洋服屋をやっています。子どもの頃から、客に服を選ぶ母の横で育ちました。人にはそれぞれ生まれつきの骨格があって、それに合う形を選べば誰でも見違える。母がよく客に話していたことは、いつの間にか俺の目にも染みついていました。
彼女が選ぶ服は、どれも体の線が出にくいゆったりした形でした。けれど彼女の骨格には、体の線に少しだけ沿うすっきりした形のほうが合う。そのほうがずっと魅力的に見えると、ずっと思っていました。紺やグレーを選ぶ感覚は彼女らしくて、好きでした。
ただ、骨格の話をすれば、体のことをあれこれ言っているように聞こえる気がしたのです。それを避けたくて選んだのが、似合わないという一言でした。そのほうが傷つけずに済むと、本気で思っていました。
いつもと同じ色のブラウス
何度目かのあとで、母に相談したことがあります。
「服の形が合ってないって、どう伝えたらいい」
「そのまま言えばいいのよ。言い方を覚えなさい」
母は商品をたたみながら、あきれたように笑いました。
それでも言えないまま、駅ビルの服屋の前で彼女に聞かれました。
「じゃあ、どれなら似合うの」
強い口調でした。店に入り、彼女がいつも選ぶのと同じ紺色で、体の線に少しだけ沿う形のブラウスを探します。何着か見比べてから、1枚を渡しました。
試着室のカーテンが開くと、いつもより表情まで明るく見えました。やっぱり似合う。そう思ったのに、うなずいて口にできたのは「うん」だけです。袋を受け取る彼女の横で、俺はまた理由を説明しないまま店を出ました。
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「ちゃんと言えたの?」



























