
信号のたびに手を離す彼→今日は私から繋がないと決めた帰り道、改札で彼が言った一言
コラム
改札の前で聞いた言葉
彼は2、3歩進んだところで、こちらを振り返りました。
「行かないの?」
「行くよ」
並んで渡った横断歩道が、いつもより長く感じられました。駅までの道も、手は離れたまま。途中で一度、彼の右手がこちらへ動きかけた気がしましたが、すぐに元の位置へ戻っていきました。
改札の前で、彼が足を止めました。
「いつも、ありがとう」
「何が?」
「なんでもない。またね」
彼はICカードをかざして、ホームへ続く階段を上っていきました。
そして...
家に帰って、スマホのメモを開きました。上の行にも、下の行にも、その日は足す線がありませんでした。
画面を見ながら、改札の前で聞いた言葉を何度もなぞりました。引くつもりだった線は、結局どこにも引かないまま。数えるのをやめたのは、あの日からです。
まだ、彼に聞けていないことがあります。手を離すのはいつも彼のほうなのに、どうして「ありがとう」だったのでしょうか。
(20代女性・事務職)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)






























