
「好きな席でいいよ」と言う彼は、いつも私を壁側に座らせる。居酒屋で通路側に先に座った日のこと
コラム
答えは帰り道まで
「ちゃんと話す。でも、帰り道でもいい?」
ここでは言えないことなのだろうか、と思いました。ほかに好きな人がいる、といった話まで頭をよぎり、すぐに打ち消します。席の話から、そんな告白につながるとは思えません。私は立ち上がり、壁側のベンチへ移りました。
通路側に座った彼は、いつもの調子で唐揚げとサラダを頼みました。仕事の愚痴をこぼし、私の取り皿にレモンを添えてくれます。何も変わらない様子に、さっきの低い声がかえって耳に残りました。
グラスの氷が溶けきるまで、箸はほとんど進みませんでした。
そして...
店を出て、駅までの道を並んで歩きました。彼は何度か口を開きかけては、そのまま前を向きます。
横断歩道の手前で信号が赤に変わったとき、彼が立ち止まりました。
「さっきの話だけど」
街灯の下で、彼の横顔を見上げました。「好きな席でいいよ」と言いながら、1年間ずっと私を座らせなかった通路側の席。あの席には、私の知らない何があったのでしょうか。
(20代女性・事務職)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)





























