
彼女の車のハンドルに、俺が触れなかった事情→ルームミラーのお守りと、実家の玄関先で頼まれたこと
コラム
「あの子の車で初めて遠くへ行く日は」。挨拶の帰りに彼女のお父さんから頼まれたことを、俺は運転席に座るまで忘れていました。
彼女のアパートの駐車場で、俺は手のひらを差し出していました。白い軽自動車は、彼女が貯金で買った初めての車です。いつもの調子でキーを受け取ったとき、大事な約束が頭から抜け落ちていました。
口癖になっていた言葉
付き合って2年、出かけるときの運転はずっと俺の役目でした。彼女は免許を取ってまだ1年で、助手席にいてくれたほうが安心だと思い込んでいたのです。
この日も、気づけば口が先に動いていました。
「俺が運転するから」
「今日は私が運転したい」と言う彼女に、「慣れてないだろ」と笑ってキーを受け取りました。彼女の顔が少し曇ったことには、気づいていたのです。
玄関先で頼まれたこと
運転席に座ってシートを下げたところで、ルームミラーのお守りが目に入りました。納車の日に、彼女のお父さんが渡したものだと聞いていました。
2か月前、初めて彼女の実家に挨拶に行った帰りのことです。玄関先で、お父さんに呼び止められました。
「あの子に運転を教えたのは俺なんだ。あの子の車で初めて遠くへ行く日は、隣に乗ってやってくれないか」
自分が教えた娘の運転を、代わりに見届けてほしい。そういう頼みだと受け取って、俺はうなずいていました。それなのに当日、真っ先にキーを取り上げたのは俺自身だったのです。
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助手席で見ていたもの


























