年収で彼女に負けていた俺が、「年収で選ぶ女は最低」と言い続けた事情

コラム

彼女の実家で、父親が会社の話を始めたとき、俺は箸を置いていました。帰りの車でハンドルを握りながら、それまで一度も口にしなかった話を切り出します。

勉強会の受付で、彼女が差し出した名刺の会社名を見て、俺は名刺入れを閉じるのが少し遅れました。同じ業界にいれば、だいたいの年収は想像がつきます。付き合いはじめてからも、その差はずっと頭の片隅にありました。

ニュースのたびに出た口癖

ソファで並んでニュースを見ていると、結婚相手に年収を求める人が増えているという話題が流れました。
「年収で選ぶ女は最低」
そう言って、チャンネルを変えます。
彼女が俺の年収を気にしたことは、一度もありません。それでも、いつか年収で見限られる日が来るのではないかと、どこかで思っていました。
先にこう言っておけば、彼女はそんな人ではないと確かめられる気がしたのです。口癖は、そうやって増えていきました。

誰かを下に置く言葉

後輩が新車を買ったと聞けば、「見栄っぱりだな」。彼女の同僚が昇進したと聞けば、「どうせ上に気に入られただけだろ」。
誰かを下に置いている間だけは、自分の年収のことを考えずにすみました。
「誰かのことを、そんなふうに言わなくてもよくない?」
「本当のことを言ってるだけだろ」
彼女の顔を見ないまま、スマホの画面をスクロールして答えていました。
そんなころ、彼女の実家に呼ばれます。郊外の大きな一軒家でした。
食事の途中、彼女の父親が会社を経営していると知りました。地元で長く続いている会社だそうです。気づくと俺は箸を置いて、父親のほうへ身を乗り出していました。

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