
柴犬に吠えられるたび目をそらしていた俺が、犬へのあいさつを教わった場所
コラム
仕事帰りに通いはじめた店で、同じあいさつを何度も練習しました。週末の散歩の誘いに「今日も無理」と返すたび、彼女のメッセージは短くなっていきました。
ドアを開けた瞬間、彼女の部屋の柴犬が吠えはじめました。近所の犬に手をかまれたのは、小学生のころのこと。それ以来、犬の声を聞くと、上着を脱ぐのも忘れて、ソファの端でスマホを見てしまいます。
目をそらしていた理由
彼女が柴犬の写真を見せるたびに、「へえ」とだけ言って仕事の話に変えていました。怖がっていると見抜かれそうだったからです。
その日、彼女がリードを手に取りました。
「一緒に散歩行かない?」
彼女の声に反応して、犬がまた俺に向かって吠えます。
「犬の散歩に付き合う暇はない」
スマホに目を落としたまま、そう答えていました。画面を見ていたのは、犬と目を合わせないためです。大人になっても犬が怖いなんて、彼女にだけは知られたくありませんでした。
1人で玄関を出ていく彼女の背中を見て、ようやく気づきます。いつか一緒に暮らしたいと思っているのに、このままでは、その話を切り出すこともできません。
仕事帰りの犬カフェ
次の週から、仕事帰りに犬カフェへ通うようになりました。
店員さんに事情を話すと、犬へのあいさつの仕方を教えてくれました。身を低くして、軽く握った手を鼻の前に差し出すこと。吠えられても、慌てて手を引っこめないこと。
最初は、店の犬が近づくだけで背中が汗でぬれていました。彼女の部屋でも、犬が近づくたびに、つい立つ位置を変えてしまいます。
その間も、週末になると彼女から散歩の誘いが届きました。
「週末はいつも、川沿いを橋まで歩くんだよ。一緒にどう?」
返したのは「今日も無理」の一言です。練習していることを話せば、怖いことまで話さなければなりません。
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橋のたもとのベンチで


























