
泊まりに来た父に聞こえる声で妻に我慢しろと言い放った俺が、翌日から台所に立った事情
コラム
「今日は俺がやる。父さんは座ってて」と言ったのは、父が泊まりに来た2日目のことでした。台所で妻にあんな言葉をぶつけた俺が、そのあと父の注文を引き受けることにした理由とは。
台所で皿を拭いていると、リビングの父から「風呂が熱すぎる」と声が飛んできました。来てから、これで4つ目の注文です。隣で湯のみを洗っていた妻が、そっと俺の袖を引きました。
わざと大きくした声
「お義父さんに、少しだけ言ってくれない?」
妻の小声を聞いて、子どもの頃の台所が浮かびました。父の注文に母が1つ口答えすると、父は母を台所に立たせたまま、長い説教を始めたものです。母はいつも、黙って最後までうなずいていました。
ここで父に言い返せば、今度は妻を呼びつけて「嫁としてどうなんだ」と説教を始める。子どもの頃、母が何度もそうされるのを見てきました。せめて今夜だけは、妻を父の前に立たせたくありませんでした。
布巾を置いて、開いたままのリビングのドアのほうを見ます。父に聞こえるように、わざと声を張りました。
「夫婦なんだから妻が我慢しろ」
妻の顔は見られませんでした。風呂場へ向かう背中を見ながら、父を黙らせるためとはいえ、妻を傷つける言葉を使ったことに気づきました。せめて明日からは、父の注文を全部自分で引き受けようと決めたのです。
父の注文を引き受けた俺
次の日は、妻より先に台所に立ちました。
「今日は俺がやる。父さんは座ってて」
父の分の味噌汁をよそい、風呂の温度は先に確かめます。父が硬いと言った布団は、自分の布団と入れ替えました。父の長い話にも、スマホを置いて最後まで付き合っています。
妻が台所に立とうとするたび、首を横に振りました。父の前では、俺が全部やっていると見せておく必要があったからです。
最後の食事の席で、父が箸を置きました。
「嫁が台所に立たないのはどういうことだ」
茶碗を置いて、父のほうへ体を向けました。
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父に言えた言葉


























