
初めての温泉宿、カメラを向けるたび顔の前に手をかざす彼氏→窓ぎわで聞いた私に返ってきた一言
コラム
窓ぎわで途切れた返事
食事が下げられたあと、窓ぎわのイスに向かい合って座り、私から切り出しました。
「私と写ってるの、誰かに見られたら困るの?」
彼は窓の外を見たまま、なかなか答えません。待っているうちに、ずっと聞けずにいたことまで口から出ていたのです。
「それとも、私みたいなのと付き合ってるって、友達に知られたくないとか?」
言いながら、自分で自分を小さくしているようで情けなくなりました。彼は首を横に振りました。
「違う。困るのは、俺じゃなくて」
そこで言葉が途切れ、続きは出てきませんでした。困るのが彼じゃないなら、誰なのか。真っ先に浮かんだのは、私の知らない女性の顔です。彼は膝の上で両手を組み直し、こちらを向きました。
「帰りの電車で、ちゃんと話すから」
問い詰めたい気持ちも残っていましたが、そらされなかった目を信じて、うなずきました。
そして...
帰りの電車で、彼はしばらく前の座席の背もたれを見ていました。やがてスマホに何かを打ち込み、画面をこちらに向けました。
「これ、俺なんだ」
画面にあったのは、お店の隅で眠る、今より若い彼の写真。下には、顔をからかうコメントが並んでいます。彼は続けました。
「大学のとき、友達に撮られた写真を勝手に載せられて、知らない人にまで回ったんだ」
「だから、手を?」
私がそう聞くと、彼は小さくうなずきました。疑っていた自分が恥ずかしくなりました。
ただ、窓ぎわで途切れた言葉の続きは、まだ聞けていません。困るのが彼じゃないなら、あの手は誰のためにかざされていたのでしょうか。
(20代女性・事務職)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)































